耐震性をアップするために様々な金物が開発され、構造を補強していくことが比較的、簡単に対応できるようになったことは喜ばしいことなのですが、ちゃんとその金物の使用条件を理解しないまま使うととんでもないことになることがあります。
その一つとして、柱脚部分につける金物があります。いつも使わせていただいてるメーカーさんのものですが、実例をあげて説明します。
◎シナーコーナー
非常に使い勝手の良い金物で、引抜レベルでいいますと、10kN程度、番号でいうと「へ」番まで対応できるという優れものです。告示をそのまま読み解けば、10kN以上の引抜力が発生する箇所は「ホールダウン金物」というものを使い、基礎にM16の太いアンカーボルトを埋め込み、柱を直接、基礎から引っ張る形で引抜力に抵抗するように定められていますが、一応、10kNレベルでは、シナーコーナーのようなプレート上のものの利用も原則として認められています(※原則です)。
なので、ホールダウンのアンカーボルトの本数を減らしたいと考えて、10kN程度の箇所はすべてプレート金物でというやり方はある意味、省施工の観点からも有効なわけですが、実はここに落とし穴があります。メーカーさんのサイトにも、
という注意書きがあるのですが、この一番上の「柱脚部に近接した位置に設置するアンカーボルトには柱脚接合部の引張耐力に応じた座金を選択、施工してください」とあります。実は、これをしっかり理解せずに、単に、使い勝手がいいということだけで採用してしまうケースが多々あります。そして、この点は、基準法の仕様規定に準拠するという一点だけで、大きく見逃されていることが多いです。
本来、この金物が使える場所は、画像のような土台と柱に対して、柱の両端にM12のアンカーボルトが存在している場合にしか使えません。画像の赤と緑の2本のアンカーボルトで土台をしっかり受け止めているという状況なのですが、この「2本」ということがミソで、金物と土台はシナーコーナーの耐力によって問題ないのですが、アンカーボルトには土台ごと基礎から引抜かれる力がかかりますので、アンカーボルトが基礎から引き抜かれないことが想定されていた場合、今度は、アンカーボルトと土台を止めている「ナットと座金」によって土台に「めり込み」が生じ、めり込みが進めば、結果としてアンカーボルトの箇所で「破断してしまう」わけです。
言い換えれば、以下のような画像でアンカーボルトが1本でシナーコーナーの柱を支えるとなると、
このアンカーボルトに10kN相当の力がかかるわけで、このアンカーボルトの先端の座金とナットがその力に負けないことが必要になるのですが、これを高耐力な座金とナットで、おそらく好んで使われている、BXカネシンのカットスクリューⅢでも、その耐力は、8.32kN(対ヒノキの場合)しかありませんので、カットスクリュー自体がめり込んでしまうというわけです(※詳細に言えば、アンカーボルトは柱からある程度の距離がありますので、その距離の分、単なる引抜力以上の力がかかりますので、実際には、12~13kN程度の力となります。)。
これらは、設計としては、「構造計算」を行えば、「確実に」引抜検定をしますので、アンカーボルトの座金がめり込んでしまうなどの不具合は数値計算レベルで確認でき、採用しないようにすることも可能ですが、先ほども書いた通り、単純に「使える」からという理由で採用してしまうと、構造的に脆弱な建物になるというわけです。
構造計算の必要性というのは、こうした金物設置に対しての安全性の評価を行うことも手順の一つとして必要ですので、構造計算をせずに設計することは、かなりのリスクがあるということを申し上げておきます。