建物の床って絶対に水平じゃないとダメですよね?傾いた床なんかで生活していると「めまい」などの体調不良の原因になったりもします。でも、現時点での建築物はすべて「人の手」で作られるものですので、施工上の誤差というものはつきものです。従って、現実問題として、CADなどで線を引くイメージで「まっすぐ」であるということは不可能に近いです。施工上のズレだけではなく、仕上げで張るような床材も、例えば12mmの厚みがあるといっても、製造レベルでそれが12.1mmだったり、12.5mmだったりすることもないとは言えませんし、無垢のフローリングなどを利用すれば、当然、材料自体の変形としてソリやムクリ、また、塗装の厚みムラもあるので、同様に「まっすぐ」とは言い切れません。
一応、建築物としての床の傾斜の誤差というものには定めがあります。建設省告示第1653号、「住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準」がそれにあたります。
ここでの定めから申しますと、新築物件の床の傾斜の許容は、3/1000の傾斜未満ということが読み取れますが、計測の方法としては1mピッチではかるというわけではなく、建物の中心を基準として3m程度のピッチで計測した結果の割り返しの値としての基準です。
3mというと6畳間の短辺方向の長さより少し長いくらいです。6畳間の短辺方向ですと、2.7m程度ですので、この勾配比率から言えば、8mm程度の傾きがあっても「許容」ということになります。でも、実際の新築施工現場で、2.7mで8mmも傾いていたとしたら、それは大騒ぎになりますwww 中古住宅で年数も経っていれば、床を支持する構造材の変形などでこれくらいの傾きがでるのは普通にありますが、新築でこうなりますと、なんらかの「施工上のミス」というのが懸念される事態になります。
さて、「建物の水平は何をもって担保されるか?」といいますと、これは基礎なのです。基礎の水平レベルの精度が悪ければ、その上に載る建物(上部構造)は、基礎の水平精度と同じになります。当たり前です。近年、木造の構造材の加工はプレカットといわれる「機械加工」です。この機械の精度は年々進歩し、はっきりいいますが、人間が手刻みで加工するレベルの比ではありません。また、製材精度も格段に向上しています。
それでも、加工する際の機械に取り付いている刃物の切れ味の違いなどで、加工上の誤差がゼロということはないです。昔の大工さんは、実際の木材加工でどの部分を削ったり穴を開けたりするかを「墨付け」という工程で、実際に材料に細い線を墨で引いていく作業をしていました(今もしてますけどw)。そして実際にノミを振るうときに、その墨の線を微妙に残したり、墨が消えるところまで削ったりして微調整をしていたわけです。線には太さがありますので、0.5mmの線であれば、この線の右で削るか、左で削るかで0.5mmの調整ができるというわけです。6mとか9mとかの建築の世界で、吟味しているのは、この0.5mmだということをご理解いただければと思います。このような感覚で施工をこなっていると、3/1000という許容誤差といわれるものが如何に大きなものか?ということなのです。
さて、基礎の話しに戻しますが、木造の場合、立上りの基礎の天端に土台が載ってきますので、天端の仕上げ精度が問題になってくるわけです。そこで、できるだけその精度を上げる工夫を現場では行います。それは、
「天端ターゲット」
と言われる「印」です。
これを鉄筋に取り付けて、コンクリート打設前にターゲットのレベルを設計で指定している高さにすべて合われる作業を行います。



ターゲットは1m程度の間隔で設置していきます。立上りの打設はこのターゲットの頭が出る感じで打設していきます。その後、この立上りに「天端レベラー」という無収縮モルタルを流し込みます。
画像間に合わなかったので、メーカーさんのをお借りしますw

この「天端レベラー」は、水をためるとその水面は文字通り「水平」になることを利用して、トロトロにといた液状のモルタルを立上り打設後に流し込み、「水平」を作り出すものです。従来の方法は、型枠を外してから水平の墨を基礎に打って、それを基準に天端に左官屋さんがモルタルを塗っていました。これを「天端モルタル」というのですが、調整がしやすい反面、水平の墨を打つ際の誤差や、モルタル塗りを行う際の定規の当て方などで、どうしても水平の施工誤差が大きくなるという欠点がありました。また施工時間もかかるというデメリットもあったわけです。
この「天端レベラー」は、20年以上前から製品としてはあったのですが、品質や施工でのミスなどもあって、「使うの嫌だ!」というのが結構あったのですが、今では製品品質も格段に向上しているのと、天端レベラー自体の施工になれてきたということもあってよく使われるようになっています。ただし、部分的な基礎を作ったりする場合や、極々小規模な範囲の基礎工事などでは、まだまだ左官屋さんの「天端モルタル」は現役です。
基礎の天端の水平精度がそのまま建物の水平精度に直結するという話しですが、もう少し掘り下げますと、在来木造の場合、極端な言い方をすれば、
「柱が載る土台部分の水平の精度」
が問題となります。柱と柱の間の基礎レベルが多少波打ったとしても、その上に載る土台の柱が取り付く部分の高さがすべて一定であれば、建物を水平に建てることは可能です。これは現場管理を行う上で一つ重要なポイントになります。基礎の天端の水平精度の検査の際には、柱位置に対する水平精度を確実に担保することになります。この部分の水平精度の誤差が1mm以内に抑えないと、実は簡単に3/1000の誤差を発生させてしまいます。
基礎は、建物重量を地盤面に伝えるだけではなく、建物の水平精度を確保するために重要な存在なのです。