木造の構造規定法適合審査を今一度考える その3

その3ですw

しつこいようですが、もう一度、告示の内容を示しますw

おさらいですが、この(い)~(ぬ)の項目というのは要求される引抜力に対して、「告示仕様規定として求める基準」がかかれています。そして、その引抜力というのが以下の表の数値です。

必要耐力と記載がある数値が、(い)~(ぬ)(※正確にはそれ以上の場合もある)でランク付けされているというわけです。この引抜力を算定する方法として法的に記載があるのは、以下の表一と表二による柱と筋交いなどの状況による(い)~(ぬ)の選択でしかありません。

おそらく木造をやってる方の大半の方は「N値計算」というやり方で引抜力を計算して金物を設定していると思いますが、法的にはどこにも「N値計算でやれ」とはかかれてません。言い換えば「でもいいよ?w」なだけで、それも法的根拠というより、許容応力度法による引抜力算定方法を略算できるように考えて、提唱されたのが「N値計算」にすぎません。以前のブログテーマでN値計算の歴史みたいなのに触れてますのでご参考までにw

さて、土台と基礎はアンカーボルトで緊結され一体化された状態を作るというのは「その2」でもご説明しましたが、柱に強烈な力がかかれば、柱と土台は外れないけれどアンカーボルトが基礎から引き抜かれるわけで、それを防止するための仕様規定として(と)からの接合については「横架材(土台)を除く」としているわけです。そこで焦点をあてたいのは(へ)なわけです。

(へ)は10kN相当の引抜力に対応することを求められるわけですが、告示の内容をそのままみると、結局、「ホールダウン金物を使え」というのが仕様規定なわけです。なぜか?と言えば、10kNでホールダウン使わないでアンカーボルトで土台を基礎と緊結した場合、柱に引抜力がかかると「ヤバいかも?w」っていうことが謳われているわけですが、実は、そうでもないことが多いので、そこは設計者の判断に任せるから(へ)には「土台を除く」という記載はないわけです。要するに、微妙ってことですw

弊社でも便利に使わせてもらってる10kNの金物としては、TANAKAさんのシナーコーナーがありますが、おそらくお使いの方も多いと思います。

試験結果からいいますと、規定より1kNも高い引抜力に対応できる能力がありますので、ホールダウン金物を減らすという意味合いではもはやテッパンの金物です。ですが、告示ではダメだとはいわないけど、使うならちょっと設計者としては判断しなければならないのが「アンカーボルト」の存在です。以下に模式図を示します。

シナーコーナーは中柱でも隅柱でも使える、マジで便利な金物ですが、仮にアンカーボルト1本だったらそのアンカーボルトで持つのか?ということを気にされてますか? 「構造仕様規定に準拠している」ということだけを担保にして金物を選んでいるのであれば、アンカーボルトの施工方法や仕様をしっかり吟味、監理しておかないと意外とギリギリなわけです。

計算式としては、3つの評価を行って、そこで一番不利な状況のものをアンカーボルトの引抜耐力として採用します。

1.コンクリートとの付着耐力 T1 = π・d・L・sfa (N)
   π:円周率3.14
   d:アンカーボルトの直径 (mm)
   L:埋め込み長さ (mm)
  sfa:コンクリートの付着に対する短期許容応力度 (N/mm2)

2.ボルト鋼材の引張耐力 T2 = Ae・sft (N)
   Ae:アンカーボルトの有効断面積 (mm2)
  sft:ボルト鋼材の短期許容引張応力度 (N/mm2)

3.短期許容コーン破壊耐力 T3 = 0.6×Ac×√(9.8Fc/100) (N)
   Fc:コンクリート設計基準強度 (N/mm2)
   Ac:コンクリートのコーン状破壊面の有効水平投影面積 (mm2)
    Ac = B×(B+√(L^2-(B/2)^2 )) (mm2)
       B:基礎幅 (mm)
       L:埋め込み長さ (mm)
       ※隅角部で最も面積が小さくなるところを想定している。

この3つの数値の中のもっとも小さいものを、

アンカーボルトの短期許容引張耐力 Ta (N) Ta=min(T1,T2,T3)

としています。この3つの評価はなにをみているか?といいますと、まず、1は、アンカーボルトにコンクリートが巻き付いてしっかりとくわえ込んでいる力を示します。2は、アンカーボルト自体の鋼がひっぱられてびよーんって伸びないかという限界の力を示します。3は、えっと、雑草とか引き抜くとボコッと土がついて引き抜かれますが、そういう壊れ方をするときの耐力を表します。

普通に計算すると、たいがいの場合、T1がもっとも小さくなるので、T1の評価を気にすることになりますが、T1の式の3つの要素である、コンクリート強度、アンカーボルトの直径、そして埋め込み長さをきっちり見ていないと引抜に対して監理できていることにはならんわけです。

コンクリート強度とアンカーボルトの直径はだいたいどの現場でも変わりないと思います。おそらくFc21Nでアンカーボルトの直径はφ12ってところでしょう。昔ですと、Fc18Nなんてのもあったかもしれません。これを元にT1を計算しますと、Fc21Nのとき、sfaは1.4くらいなんで、

T1=3.14×12×L×1.4=52.752×L

って感じです。仕様規定に明確に記載がないけど、アンカーボルトの埋め込み長さが250mm以上だということなので、L=250としますと、T1は、

T1=13188(N)=13.188(kN)

となります。埋め込み長さがL=240ならT1=12600(N)=1.26(kN)です。本来、許容応力度計算で引抜力は算定されますので、細かい数値がでてきますが、アンカーボルト1本が普通に受け持つことができる最大の耐力は13kNがいいところなわけです。しかもそれは、Fc21というコンクリート強度や、埋め込み長さが250mmしっかりなされていての話しなわけで、コンクリート強度をFc18とかにケチったり埋め込み長さの施工をしっかり吟味してなければ、このT1の数値は12,000をウロウロするってわけです。

ちょっとした施工ミスなどで耐力が落ちるわけですので、構造仕様規定では(へ)であえてホールダウン金物を書くのはもはや法としてはしっかり整備しているということになるわけです。でも、この計算だけで、T1の値が分かったわけですので、N値計算の結果で(へ)がきたら、TANAKAさんのシナーコーナーを自信をもって取り付けてあげればいいわけなのと、万が一にそなえて、(へ)の柱脚の両側にはアンカーボルトを仕込んでおく、つまり、2本で土台をひっぱっておけば、より安全性は増すということです。

ただし、あくまでも仕様規定では、ホールダウン金物を使うことを前提としている(へ)ですので、このシナーコーナーを使いたいというのであれば、TANAKAさんの試験結果表を確認時には資料として添付する必要があります。同等品であることをしっかりと示す必要があるわけです。これが構造仕様規定を緩和なしで審査するという意味なわけです。

もう少し掘り下げますが、「構造計算」を行い、それを安全性の証明という形で確認申請を受けるということであれば、そもそも、仕様規定を持ち出されることにはなりません。つまり、無理にホールダウン金物を使ってにょきにょき長いアンカーが基礎から飛び出すようなことをしなくても、TANAKAさんのオメガコーナーを利用すればいいわけです。たとえば、15kNまでいける、オメガコーナー15kNⅡなんかを、あえて土台に使うこともできるわけです。

ですが、このとき、アンカーボルトφ12は、13kN程度の引抜耐力ですので、確実に両側施工になります。また状況によっては埋め込み長さを深くしてT1の値をアップさせる工夫も必要です。

ただし、今度は、土台自体の材料がもつのか?という部分の検証が重要になります。アンカーボルトは座金で土台を留めつけてますので、座金が土台にめり込んできて戻ったときにアンカーボルトのナットがユルユルになるって強度が保てないことが発生します。この場合、土台をもっと硬いものにするか、座金を分厚くさらに面積の大きなものにしたりすることで対応したりしますが、アンカーボルトの引抜の問題とは別に、土台の座金のめり込みという問題での対応にせまられます。

構造計算では、

 ・土台の曲げ検定
 ・座金のめり込み検定

という2つの項目で評価します。

構造仕様規定で決められていることは、結構、計算などで裏付けされていて、それをわざわざ計算することがないように決めてくれているわけですので、はなっから「最低限の基準」などと舐めないで、その評価の本質をしっかりとつかんだ上で、コストメリットや施工性に配慮するような設計を行うべきなのです。

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