福井県議会で質問された住宅耐震化補助事業について

6月25日に福井県議会において、西本恵一議員が「木造住宅の耐震診断、補強プラン作成、及び、耐震化工事に関する県の補助事業」に関する内容の一般質問がなされました。この時の動画はYoutubeの「福井県議会【公式】」というチャンネルで公開されています。

弊社は、特定の政党、特定の議員を支持しているわけではございませんが、建築工事自体が法律の規制下にあり、国の法律はもちろん、自治体レベルでのサービスや施策に対してはかなり注意深く情報を集めており、時には議員の方や、行政職員の方とお話しさせていただくこともあります。

そのような中、今回ブログで取り上げましたのは、「耐震診断」並びに「耐震化補強工事」に関する議会における質問があったということで後日知りえることができ、福井県議会が議事の様子を公開しているということで内容を見ることができたのですが、その質問が、真に現状とその問題点をとらえていると感じたからです。

国の施策でもあります「住宅の耐震化」は、想定される南海トラフ地震等の大規模地震に備え、昭和56年5月31日以前の建築物が旧耐震基準で設計されていることを踏まえ、現行法レベルの耐震性を担保させるための「耐震化」を推進し、被害を少しでも減らそうという「減災」の視点での施策です。

この補助制度については、これまでもブログでご紹介してきておりますので割愛しますが、概略としては、

1.耐震性を評価する耐震診断に対する補助
2.耐震化するにあたって必要な工事計画(補強プラン)を立案するための補助
3.実際の耐震化への工事費用に対する補助

の3本の柱から成り立ちます。これらの補助に関しては、昨日今日できたものではなく、福井市では平成17年からはじまっている補助事業です。東北の震災や熊本の震災など大きな地震が発生すると、補助事業を申し込まれる方が増えるのですが、先般の能登地震での揺れは、震源から遠い福井でも福井地震以降、最大の揺れとなり、結果として、住宅の耐震性を不安に感じる方が急増しました。

これに応える形で福井市におきましては、診断及び補強プラン作成における経費負担を「ゼロ円」にすることで、住民負担なしで診断と補強プランを受けることができるようになった経緯があります(他の市町は有料のところがあります)。

その結果、申込者が急増し、令和6年度では異例の抽選制度をとることになり、年に複数回の抽選を行いましたが、年度内に対応できたのは希望者の半分程度で、できなかった分は令和7年度に新規受付を停止した上で、残りの希望者の対応を行っているような状況です。

確かに、耐震性を不安視することは十分理解できますが、その多くは「どの程度の耐震性があるのか?」を確認したいという考えで申し込まれる方が圧倒的に多いのです。以前からブログでも申し上げていますが、

旧耐震基準で設計されている建物が新耐震基準をクリアすることはない!

ということをご理解いただけてない状況でお申し込みされる方が多いのです。そもそも耐震性の診断は、現行法の耐震基準に対する評価ですので、旧耐震基準で設計していて大丈夫なわけがないのです。

そして、勘違いしないでいただきたいのは、

耐震改修が無倒壊を目的としているものではない

ということです。あくまでも、減災、特に、建物の過半が倒壊することで中で生き埋めになるようなことがないようにしましょうというものでしかありません。建物のどこかに損傷はあるけれども、完全倒壊には至らないというレベルまで耐震性を高めようというものです。

従って、「耐震性を測る」目的での耐震診断は意味がありません。答えは一つで「NG」としか出ません。ではなぜ耐震診断するのでしょうか? この点を理解していないのは実は、建築士でも多いです。耐震診断の目的は、

耐震性をアップするための現状把握

なのです。どこに問題があり、どこを直すべきか、そういったことを「検討するための基礎材料集め」にしかすぎません。NGの程度が評点として、現行法の10%なのか、50%なのか、70%なのか、を知ったとしても、倒壊の危険性はかわりませんし、50%だから震度○○まで持つなどということは安易に言えません。この評点の程度を如何にして100%まで到達させるか、というものを吟味するための調査が耐震診断なのです。

西本恵一議員も質問しておられますが、「耐震診断と補強プラン作成」の補助事業に申し込んでも「耐震改修を行わない、単に、耐震性能を見てみたい」という思惑だけで、工事については特段希望していないという方が圧倒的に多いのと、あるいは、診断と補強プラン作成まで行い、概算見積を提出してそれを見て、改修ができないという方も多いのです。

確かに、概算見積を見て、これはとても対応できる金額ではないと感じて工事を断念するというのはあると思います。ですが、そもそも、予算感をお持ちでないことも問題だと考えています。弊社に改修をご依頼される方の大半は「○万円内の負担であればできる!」ということを診断・補強プラン作成時にお話しされます。言い換えれば、改修に前向きであるか、そうでないかは、その予算感をお持ちかお持ちでないかの差でしかないと思っています。また、1年程度かけて、その予算を確保したお客様が「改修を行いたい!」とお問い合わせいただくことも増えております。

要するに、診断と補強プラン作成に補助金を出す場合に、それが「無駄な税金の投資」になるかどうかは非常に問題なのです。弊社はこれまで「実際に改修工事を行う方へもっと手厚い補助を」という要望を出してまいりました。ちょっと耐震性を見たいというレベルの方と、時間はかかっても改修を目的としている方をしっかりサポートするために、補助金の運用面でメリハリをつけるべきだということが主張の根幹です。

また、改修工事についても現状では問題が山積しています。補助金事業は、いわゆる年度内消化というのが原則です。最終的な補助金請求審査の時間を考えますと、どんなにおそくとも3月頭には請求申請、つまり工事完了が必要になります。規模にもよりますが、おおよそ工期は1~2か月はかかりますし、規模が大きくなれば3か月以上の日数がかかる場合もあります。となりますと、どんなに遅くとも、1月には着手できないと無理があります。

また、補助金申請には改修内容を細かく書かれた設計図書と見積が必要です。これは耐震改修を行う際に必要な金物などの数はもちろん、どのような手法で改修を行う計画なのかということを示す必要があるのです。申請では金物が一つ数量が違っていたとしてもつき返ってきます。たった数百円の金物が1枚数が合わないだけでも通りません。そういった申請書類を準備するだけでも1か月はかかります。

また、最終的な請求の際には、実際の現場施工状況の監理台帳を提出する必要があります。写真です。これも、設計図書に記載された金物配置、追加の筋交いや柱、梁、基礎を作れば基礎に関する事項について、「すべての数量」が施工されたことを証明する写真が必要なのです。以前、金物を1枚写真を撮り忘れたことがありましたが、その際には、

「壊して、写真を撮って、復旧させた」

こともございました。ですので、耐震改修の施工業者及び監理する建築士には、補助金取得のための労力がたいへん大きいのです。税金を使うわけですので、不正があってはいけません。なので監理資料は厳密に作ることは必須ですが、そのための時間は相当なもので、結果として工事は2か月で終わってもその後お手続きに資料作成で1か月程度の期間を要してしまうわけです。

弊社は、おかげ様で、耐震改修のご依頼をこれまで非常に多くいただき、実績も福井県下でもトップクラスの受注をさせていただいております。結果として、施工だけではなく、こうした申請関係のノウハウも蓄積しており、できるだけ短時間に申請資料を作成する用意がございます。ですが、すべての診断士がそのような対応ができるか?といえば、そうではありません。

時間的な問題は「年度末」という縛りなのです。これをなくしてもらえれば、対応できる改修は確実に増やせます。これが弊社の主張の2点目です。

ところがそうなったとしても、補助金金額が下がれば、工事依頼は減ります。元々想定していた自己負担分が増えれば断念する方も出てくるのは当たり前です。財源は、国+県+市町です。今回のような補助金の出し方ができているのは、国の負担分が大きくなっているからです。当然、国が下がれば、あとは県、市町で対応するしかありません。たぶん無理です。であれば、なおのこと、診断に関する補助を下げ、本当に改修を行った方へ後日、診断と補強プラン作成費に相当する分を補助するくらいのメリハリをつけなければダメだと考えております。

こうした現場の背景を事細かく質問していただいた、西本恵一議員には心より感謝いただいます。

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