耐震改修で出くわすアルアル#4

ここ最近、月おおよそ3~4軒の耐震診断調査のペースです。まだまだご希望されている方は多く、福井市においては調査及び補強プラン作成をすべて補助金で行う、つまり、お客様負担ゼロということで、すさまじい数のお申込みをいただいており、随時、抽選という形になっています。福井市側では来年度も継続して、負担ゼロでの診断及び補強プラン作成を行うという予定のようですが、今年度分で抽選漏れしている数だけでも200軒はありますので、それらがそのまま来年度にシフトしてきますので、4月からもたいへんなことになるという予測をしています。

さて、今日も診断調査に行ってまいりました。そして、アルアルに遭遇しましたwww

このお客様は、もはや抽選を待っていられない!ということで、夏ごろ、直接、弊社にお申込みいただいた方です。ずいぶんお待たせしてしまいましたが、本日ようやく調査となりました。建設年は、昭和36年(1961年)とのことで、あちこち、増築がなされています。築63年ということなのですが、内部はとてもきれいにされていて、明らかに老朽化している見え方をするところはありません。

家族構成や生活の変化で家具などの配置が抜本的に変わってはいますが、壁などは「土壁」に仕上げ塗りがなされており、それらは、60年前のものでそのまま使われています。そして、ヒビや欠けなどの痛みがありません!

壁の仕上げに問題があれば、それが単に仕上げの劣化でおこなったということであれば別ですが、深い亀裂などがないということになると、かなりしっかりとした構造になっていると見受けられます。確かに巨大地震などに対する耐震性の評価は低いかもしれませんが、日常的な振動や、震度4までくらいの良く発生する地震で繰り返しゆすられたとしても問題がなかったというわけです。正直、震度6強となればおそらく破壊などが発生するとは思いますが、建物を揺する原因としては、風や車などの交通振動もありますので、それに耐えてきたという点では「良い家」だったのでは?と思うわけです。

さて、調査を進めるうちにちょっとした謎の柱の配置を見つけました。

洗面化粧台のところなのですが、外に向かって柱が2本立ってます。

柱の配置はどういう状況か?といいますと、大きな部分は970mmの柱芯で、その外に450mmの間隔で柱が立っています。970ですので、いわゆる3尺2寸ということで、まぁ、大工さんがきっちり建てたって感じなわけですが、外側の450mmはなんなのか?ということです。そして、この450mmの壁がトイレの外壁面も続いているっていうわけです。

そしてそのまま、トイレ横の食卓兼リビングの部分まで続いています。さらに、450mmの部分が「腰掛」になっています!古い住宅様式にしてはすごくモダンなデザインだと思いませんか?w さらに飾り棚まであります。確かに広い部屋ではありませんが、こじんまりとした、ちょっと手を伸ばせばモノに手が届くという感じで、個人的にもすごく素敵な間取りだと感じました。

話しを耐震診断にもどしますが、この450mmの部分が外壁面だと思いますか?実は、昭和30~50年代初期のころの福井の間取りには、このような形態が多いのですが、この450mmの部分は「出窓」なのです!出窓といっても、現代のアルミサッシなどで作られている「出窓」ではありません。床ごと出窓なのですw

画像の赤の線の部分が本当の建物の壁で、その外に450mm床を伸ばしているということなのです。したがって、画像の黄色の部分は耐力壁として評価できるような壁ではありません。どちらからといえば、洗面化粧台のところから、食卓兼リビングまで、大きな開口部の連続であるという評価にならざるを得ないわけです。そして、イマドキの建築ですと、このようなデザインをしたとしても、基礎は作るわけですが、このころの建築様式はこのような出窓風に床を出したところには基礎はありません。空中に浮いた形、すなわち、オーバーハングとして作っています。この450mmの部分というのは、1階の屋根の軒の出を利用して作られるので、屋根はなんの苦労もなく作られています。「出窓風」にするために特殊な仕様にしているわけでもないのです。

今でこそ、住宅を建てるということは比較的に誰でも着手できるようなレベルのことになっています。高価ではありますが、ローンなども整備されていますので、今、総工費全額が用意できなくとも家を建てることができます。ですが、昭和30~50年代といいますと、住宅ローンがなかったわけではありませんが金利は非常に高く、また給与水準も低いために、「家を建てる」という行為自体が、本当に「夢のマイホーム」だったわけです。

そうなりますと、総工費を下げるために、少しでも小さなものになります。ですが、狭い家では使い勝手が悪いわけで、そこで次の手として、「基礎を作らず軒下で納めるような出窓風なつくりで床面積を増やす」ということになったわけです。

このような場合、診断士が建築様式の変遷などを理解していないと、見た目の外壁のラインで建物をみてしまうので、窓のない部分を耐力壁として扱ってしまう場合があります。それでは非常にまずい診断になるというわけです。外部からも調べれば、この450mmの部分がオーバーハングであるということは一目瞭然なのですが、気が付かなければスルーされるような部分です。

耐震診断をする上では、単に間取りの調査だけではなく、過去の建築様式なども参考にし、確実に躯体がどこなのか?というのがすごく大切なものなのです。

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