昨日、令和6年12月13日、令和6年度「福井県木造住宅耐震診断士養成講習会」および「福井県木造住宅耐震改修事業者育成講習会」が開催されました。弊社では耐震診断士は2名おりますが、うち1名が更新ということで講習を受講いたしました。
能登地震以来、多くの耐震診断・補強プラン作成事業へのお申込み、ご要望をいただいておりますが、耐震診断士の登録についてはそれなりの数が登録されているにもかかわらず、実際に実働している診断士は少なく、さらに、補助事業として耐震改修工事を行うことができる「福井県木造住宅耐震改修事業者」も少ないのが現状です。
福井県では各市町と連携し、各市町で対応できる設計士、設計事務所、工務店等の数の上での整備を進めていますが、提出書類の煩雑さ、調査及び提案内容に対する責任の重さ等の割に、受けることができる業務報酬を低く抑えられており、現実問題として業務として遂行するには時間と手間がかかりすぎる面は否めず、せっかく診断士や改修事業者の登録を行ったとしても、結果として日々寄せられる調査等依頼には対応しないという現実もあります。
ただ、お客様からの「リノベーション」などの比較的大規模な改修工事の際に、お客様にメリットがある補助金取得としての側面で、耐震改修工事を行いその補助金を取得するということは、これまでも提案の一貫として行ってきており、耐震化工事ではそうした物件も含まれていることから、純粋に診断を受け、補強プラン作成の提案を受け、耐震工事に着手したという事例は、さらに少ないというのが能登地震以前の実態ではなかったか?と推測しています。
さて、そんな中、以前からブログテーマでも取り上げてきました「2024年4月施行、改正建築基準法」により、この耐震改修関連工事もやはり影響を受けることが確定的となりました。今回の「福井県木造住宅耐震診断士養成講習会」および「福井県木造住宅耐震改修事業者育成講習会」で福井県より正式にお知らせがあった次第です。
これまで4号建築物として、建築確認申請上、大きな緩和規定があった「住宅」では、そのほとんどの緩和規定が廃止または縮小され、建築確認申請の手続きに要求される資料等が増えること、また、事実上、個人住宅においても規制が強化されることになります。これに対して国交省は大きな影響を鑑み、昨年末から全国各地で講習会を開催しておりますが、その間も、改正内容の細かな変更も行われ、対応を迫られる審査機関も含め現場サイドでは大きな混乱を招いているのが現状です。現実的には、これまで4号建築としての緩和に胡坐をかき、ろくな設計をしてこなかった設計士が淘汰されていくことになるわけで、その点においては業界の健全化としての視点ではウェルカムではありますが、その影響がすさまじくデカいことで、これまで普通に設計してきた者までが混乱の渦に巻き込まれることは正直、迷惑でしかありません。
さらに、今回の法改正では、住宅におけるリフォームとして、主要構造部の過半の改修が行われる場合も、緩和規定がなくなり確認申請の必要がでてきました。主要構造部とは、建築基準法第2条5号で「壁・柱・床・梁・屋根・階段」と定義されていますが、耐震改修の補強プランの内容によっては規制を受けることになります。例えば、
・「壁」に対しての補強工事が建物全体の壁量の過半を越える。
・「柱」に対しての金物設置工事が建物全体の柱数の過半を超える。
・「屋根」の軽量化のために瓦から金属屋根に改修する場合。
(※仕上げのみであれば規制を受けない)。
・「床」をめくり再構築する工事が建物全体の床面積の過半を超える。
・「階段」の架け替え
・「屋根、床」を支える梁の過半の改修。
など、耐震改修時点で影響を受ける箇所ばかりです。特に、壁と柱については耐震改修工事ではメインの工事となりますので、その改修量が過半となれば「確認申請の必要」となるわけです。
これがどのような影響を受けるか?といいますと、「確認申請が通らない」案件が多発するということです。
想定されることとして、経験上になりますが、以下のようなことが懸念されます。
「建ぺい率違反」
古い建物は生活の変化に伴い、増改築が繰り返されています。新築時には確認申請を行っている建物でも、車庫を増築したり、物置を増築したり、あるいは縁側の土縁部分をつぶして物干し場として部屋を作るなど、床面積が増加することを行っており、かつ、それらに対して法的な審査を受けていないため、所有者が無意識のうちに建ぺい率違反している事例です。大工さんにちょっとお願いしてやってもらったなどの場合は、この点がかなりの確率で懸念されます。
「完了検査を受けていない」
これが大半かもしれません。通常、確認申請に対しては法適合しているかの設計上の審査ですが、その通り施工されているか?の完了検査を行ってはじめて建物全体が法適合しているという証になります。言い換えれば、完了検査を受けていない建物は事実上法適合を受けていないということになるわけです。その結果、仮に耐震改修工事において確認申請を行うという場合には、現地状況が法適合しているといことも含め審査資料を作成した上で確認申請を行う必要がでてきます。
「採光、換気、排煙規制がクリアできない」
増築を繰り返されるうちに、窓などがなくなったり、小さくなったりすることで「窓(開口部)採光、換気」の規制がクリアできないことがあります。また、住宅でも床面積全体が200㎡を超す場合などでは、「排煙規制」を受けますので、直上天井から80cm以内の開口部が、その開放量に応じて、室内面積の1/50以上の空間を求められますが、そもそも、排煙規制に対応していない住宅がこの規制をクリアすることはほとんどできません。
これらのことは、影響を受けると思われる内容のごく一部ですが、いずれにしても、耐震改修工事を行いたくても行えない状況が来年4月以降発生するということです。
唯一、法規制で対応できることとしては、これは現行法でも同じなのですが、「構造関係規定」についての法順守は「耐震改修工事を行う」ということでクリアできるということです。例えば、現行法では基礎の仕様は「鉄筋コンクリート造の基礎」となっていますが、古い住宅の場合、束石に柱を立てている「石場建」という工法がとられています。これを確認申請を行う場合には、構造計算等を行い、構造上問題がないことを示さねばなりませんが、そこを耐震診断と補強で交わすことができます。また、言い換えますと、耐震改修工事が完了し、設計士が耐震改修工事証明書を発行していれば、「構造規定」に関しては問題がないということを証明できているとも言えます。
したがって影響が大きいのは、構造面では「耐震改修工事」で対応できるが、その他の法的な規制のクリアが、古い住宅で増改築を繰り返されている場合などはクリアできない可能性が高いということになります。ちなみに、敷地内に住宅以外の建物がある場合、それらも規制の対象になりますので、例えば、蔵などがある場合は、その蔵も法規制の対象になります。
このような状況になることで、福井県が目標としている耐震化率向上は、かなり伸びない公算が強いと懸念します。