建築基準法仕様規定レベルでの耐震性とは?
建築基準法での耐震性の定めというのは、「想定する地震の規模」と「地震に対する建物の損傷程度」、そして「建物の耐用期間」をベースに考えられています。建物の耐用期間というのが少々あいまいな表現になりますが、基本的に建物を使い続けると想定される期間、つまり、新築してから解体すると思われる期間のことを差します。すごくあいまいな表現です。が、オーダーとして50年くらいだと考えてもらってもよいかと思われます。「想定する地震の規模」としては、
・中程度の地震
建物の耐用年数(約50年程度)内に一度か二度は遭遇する可能性が高い地震
おおよそ、震度5強程度
・大規模な地震
極めて稀に発生する(約500年程度)地震
中程度以上の震度(震度6以上)
あいまいな表現ではありますが、以上のような認識でかまわないと思います。「地震に対する建物の損傷程度」というのは比較的具体的で、
・無損傷
・損傷しても修復により使用可能
という表現となります。ただし、ここで、損傷という表現については、建物が倒壊しない、外装材、内装材に関しても軽微、補修により復旧可能というレベルですし、損傷しても修復により使用可能というのは、構造レベル(柱や梁など)に軽微な損傷があっても補修により使用可能というレベルです。
建築基準法が想定している地震とはどんなものか?また、損傷程度はどんなものか?といいますと、
・中程度の地震では「無損傷」
・大規模な地震では「損傷しても修復により使用可能」
ということを目的としています。言い換えますと、
・震度5強レベルまででは「無損傷」つまり「倒壊しない」
・震度6以上では「軽微な損傷はあるが倒壊はしない」
というレベルでの耐震性能を持ち合わせることを基準としています。もう少し具体的な尺度で言うならば、地震の時に発生する地面が揺れる加速度で示せば、諸説ありますが、
・中程度の地震では、200gal
・大規模な地震では、300~400gal
程度となります(専門的になりますが、標準せん断力係数C0=0.2という基準値からの推定としています)。ちなみに、加速度の基準になっているのは「関東大震災」で記録された最大加速度300~400gal(推定値)で、昭和56年6月以前の建築基準法耐震基準では、関東大震災の1/3程度という設定で100gal程度を想定していたのですが、このときの改正により200galに引き上げているという認識でよいです(これが新耐震基準といわれるものです)。まとめますと、現状の建築基準法で定められている様々な構造上の規定(これを仕様規定といいます)を満足していれば、震度5強程度で倒壊することはない、ということが言えます(ただし複数回の想定はない)。
そもそも耐震性能ってなに?
耐震性能というのは、簡単に言えば、「地震で発生する揺れが引き起こす横からの力(以下、水平力)に対して、どのくらいの強度があるのか? あるいは、どのくらいの水平力まで耐えることができるのか?」ということです。そして重要なことは、地震による水平力というのは、かの有名なニュートンの公式である、
F=ma
で示されるものですが、この式は質量mに、加速度aが作用したときに、Fという力が発生するということを表しています。この場合、加速度aはそのまま地震による加速度ですが、mというのはなにかというと建物の重量ということになります。ということは、震度の同じところの地域ではこの加速度が同じだと仮定できますので(これも実は厳密には変化しているんですが)、想定される水平力というのは「建物重量」に影響されると結論付けることができます。実はここが重要なのです。重量が大きな建物が要求する耐震性能は、建物重量が小さな建物よりも大きいことになります。まず、これを理解する必要があります。
あなたの家の重量ってご存じですか?
建物重量が重い、軽いというのは単なる形容詞にすぎません。従って本来耐震性能を考えるためには建物重量がどのくらいあるのか?ということを具体的に知る必要があります。結論から申し上げますと、建物重量を知るためには、「構造計算」というプロセスが必要になります。逆に「構造計算」を行わない場合、永遠に建物重量を知ることはほぼありません。なぜなら、「構造計算」を行わない場合には、屋根に葺かれている材料で建物全体の重さを、重い、軽いという判断しかしていないからです。そして面積に対して一律の係数の掛け算を行って必要な水平力に対応できる「壁量」というものに置き換えているにすぎないということです。これが建築基準法の仕様規定と言われる内容となっています。
例えば2階建ての住宅の場合、屋根の仕上げが瓦屋根の場合は面積に対する係数を1階の床面積に33を、2階の床面積に21をかけます。金属屋根の場合、1階には29を、2階には15をかけて計算します。たったこれだけのことです。床面積にこれら係数を掛け合わせた数値に対して、倍率と言われる筋交い等がどの程度入っているかの量的な判断がベースにしかなっていません。
仕様規定をクリアすれば耐震性能は担保されるのか?
ずいぶん前置きが長くなりましたが、建築基準法の仕様規定を満足していれば耐震性能は担保されているのか?という疑問についての答えは、これまでの説明をまとめると以下のようになります。
・中程度の地震(震度5強以下、200gal程度の地震)では「無損傷」である耐震性能
・大規模な地震(震度6以上、400gal程度の地震)では「損傷しても修復により使用可能」となる耐震性能
ところが、建物の重量については屋根の仕様で軽い、重いを判断しているだけですし、地盤の強さ、雪が屋根にのっているなどについては、別途、割増しを検討しなければ考慮したことにはなりませんし、壁や床がかなり重い重量の材料を使ったり、あるいは、床に置く家具や備品などが相当重いもの(例えばピアノだったり)だと、その分の影響は「構造計算」を行って検討していない以上、重さを考慮したことにはなりません。従って、仕様規定をクリアしているからといって、上記の地震に想定した被害状況より上回る被害が発生してくる可能性があります(特に、北陸では雪についての考慮は必須です)。
構造計算の必要性
繰り返しになりますが、耐震性能を明確にするためには、「建物重量」を算出し、そこから作用する水平力に対応できるだけの強度が必要になります。そのためには「構造計算」を行う必要があります。どんなに、良い材料を使おうとも、特殊な工法を採用しようとも、ベースになるのは力学的な根拠や挙動から評価できるようなプロセスを経ない限り、安全性を確実にすることはできません。また、「構造計算」を行うということは、建物重量だけではなく地盤状況による判断、積雪などの影響、材料部材の強度などを含め、多くの判断材料を元に検証します。従ってより現実的な判断ができることになります。
よく「構造計算を行うとコストがアップする」ということを説明で受けたということをおっしゃる方がいます。はっきりいいますが逆です。構造計算を行なわないことで、無駄なコストをかけ、不必要な対策をとるようなことはなくなります。合理的な判断の元に、必要な措置を限定的にとることができます。そういったことを理由とする業者は、構造計算を行う能力は皆無であり、かつ、構造的な判断のノウハウがないという業者であると考えていただいたほうがよいかと思います。
私たち福登建設株式会社は、新築物件、増築物件に対して全棟構造計算を行うことを設計レベルで行っております。これは、皆さん方の建物の安全性をできるだけコストを抑える形で実現するための手法として重要です。一般的には2階建ての住宅レベルでは構造計算を確認機関などの公的窓口で審査することはありません。ですが、だからといって「しなくてもいい」、「やってはいけない」ことではないのです。これだけ大規模な地震が多くなってきている、また、群発地震が発生することが当たり前になっているわけですから、法律がそれを求める求めないに関わらず、安全性の検証を行うことの重要性は高まっているはずです。
あなたの住宅の設計図書には「構造計算書」がありますか?
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