「非」住宅の木造化 その5(終)

その4に続きます。

「非」住宅の木造化は、300㎡内外の小規模な建築物で、かつ、低層な場合は比較的構造計画がしやすい反面、それ以上の大きさになると確実に構造躯体の耐力を含めた「強度」の検証が必要になります。また、構造躯体の耐力においても、その「非」住宅の規模が一般的な住宅レベルの規模、すなわち、木造2階建て延床面積150㎡程度であれば、一般的な住宅における構造計画は通用しますが、それよりも大きくなると、要求される耐力に対する対応方法にはかなり工夫を必要とします(言い換えれば、住宅においても150㎡を越す床面積を持つ建物ですと、同じレベルで検討を必要とされるということです)。

これらは、法規制上、確認申請において構造計算などを審査要求されていなくとも、「建物の構造安全性の評価」としては必要なのですが、建築系のメディア、マスコミ関係の記事などでは、「住宅と同じレベルで計画ができる」という点を「非」住宅への対応メリットとして挙げているところもありますが、これは全く危険な考え方だと思います。

確かに、確認申請では現行法においては2階建て以下であれば「500㎡以上」でなければ構造計算に対する審査は必要ではありません(現時点での法規制。令和7年以降、改正されます。)。しかし、審査されないから構造計算を行わないという短絡的な考え方では、構造安全性の評価などできません。単に規定量の筋交い等の耐力壁が存在しているだけで、一切の建物重量を評価の枠にいれない「構造関係仕様規定上の壁量規定」では、おおよそ、建物用途によって内部に置かれる備品や荷物などの荷重には対応できません。

ちなみに、建築基準法上、以下の荷重値を積載荷重を基準として評価することになっています。

建築基準法施行令第85条より

これらはあくまでも基準でしかなく、本来は実態に応じた荷重とするために、この数値よりも大きくなったり、あるいは少々目減りすることもあります(あくまでも実態根拠を示した上でです)。事務室などは書架などの重量物があったり、機械設備などの重量もありますから、いくら一般住宅を木造で建築しているからといって、同じ評価ではダメなことはこの表をご覧になっても想像できると思います。

木造建築においては、住宅の構造品質を高めるために様々な金物や建材が開発されています。以下の画像をご覧ください。

これらは、木造住宅専用の金物ではなく、あくまでも木造構造で利用できる金物ですが、これらの金物は梁の大きさに対応して大きさが違っていたり、また、その金物自体の「強度」がしっかり定められています。よって、その強度を上回る荷重等がかかる場合には「採用できません」。設計士としては実に「当たり前」のことですが、構造計画を理解しない設計士は、「サイズに合う金物さえ採用すればよい」とか「金物を使うから大丈夫だ」という、全く根拠のないことから採用していたりします。

また、以下の画像のように、

梁や柱を掛けたり建てたりする場所の「細工」が非常に複雑だと、如何にも「匠の技」という感じですごさを感じるかもしれませんが、画像の下部に柱がない場合、つまり、梁の中間部分にこれだけの細工が施された場合、「梁の断面欠損」というものが大きくなりすぎて、その梁の強度が相当低下する結果となります(画像の場合、数値計算上65%低下します)。

つまり、「非」住宅の木造化では、運用上想定される「荷重」をしっかりとらえることと、その重量に対応できるような構造計画を計算などでしっかりと安全性を評価する必要があるということ、さらに、それらが法規制上の審査で不必要であったとしても、審査不要にすぎず、設計の一端としては「必須」であるということを理解しなければなりません。

あなたの事業施設の設計図書に「構造計算書」はありますか?

タイトルとURLをコピーしました