大工さんのミス

ちょっとショッキングなブログタイトルですが、古い住宅を改修していると時々、大工さんがやらかした跡というのが見つかることがよくあります。以下の画像をご覧ください。

これは床の間の書院部分の壁を解体したあとの画像なんですが、1枚目の画像を見ると、なんとなくですが、向かって右側の柱が下がっているようにみえますよね?もちろん改修前からこの柱が「下がっている」ようにみえるので、その原因として、

1.基礎が下がった。
2.土台がシロアリの被害にあってボロボロになり結果として柱が下がった。
3.床が重みで下がって壁が引きずられるように下がった。

などが考えられ、特に1の場合は基礎の改修まで視野に入れなければならないほどの重大な問題なので、すごく心配していました。そして解体したのですが・・・・・・

状況としてよりはっきりと下がり具合がわかるようになって、現場では緊張感が漂いはじめました。まず、1を疑って、見えた基礎の天端の水平状況をレーザーレベラーで計測してみました。結果は・・・・

「±0」

50年前なのに、すばらしい精度です。もしかするとまだ「スイカン」を使ってた時代だと思いますので、当時の基礎屋さんの技術としては高精度だと思います。次に2のシロアリですが、全く問題ありません。3ですが、周辺の床が沈降していることもありません。となると原因としてはなんだと思いますか?単純明快ですw

この画像の右側の柱ですが、この柱は「通し柱」です。昔のやり方なので、この柱がコンクリートで作った独立基礎の上に載せられている状態です。原因は「この柱の長さが長い」ことだったのです。

今でこそ、柱や梁の加工は機械加工がなされ、その精度はかなり高いものなのですが、50年前といいますと、木造建築の場合、柱や梁を一本一本、大工さんが手刻みで手加工するのが「当たり前」だったのです。

もちろん、大工さんの頭の中では、基準となる高さが思い描かれ、そこからどのくらい下がっているのか、または上がっているのか?で、ノミやのこぎりなどをつかって加工していくのですが、そのときに、和室などで建具を取り付けるための敷居や鴨居などの「ほぞ取」なども先に加工してしまうことが多かったのです。その際、柱は独立基礎に直接おかれるわけですので、柱の一番下までの長さは、周辺の土台よりも下がる結果になり、どのくらいさがっているのか?というのをちゃんと計測して柱を切らなければなりませんし、鴨居や敷居のほぞの位置も合わせるのですが、そもそも、柱の下端の長さが勘違いして想定よりも長いので「合いません」。

もちろん、この通し柱の長さが長いので、2階の床部分も合わない、つまり、その通し柱周辺の床だけあがるはずなのですが、なんと、それなりに水平なのです。つまり、2階の床の高さは真っ直ぐになるように、「根太」という部材の上がり下がりで「調整されている」のです。まだ、壁とか作る前の段階なら、ジャッキなどで梁を受けて、柱の下端を切り落として高さを調整すればよいだけなのですが、それをやらなかったわけです。

今回の工事において柱の下端を切るか?となりますと、2階の床の水平は合わされているので逆に柱が下がった箇所だけ凹むことになります。また、この床の間の壁は、書院の建具を外して壁にしてしまうので、敷居や鴨居が入らない壁ですので、このまま壁をつくっても影響はありません。構造的に柱が少し長くなっていることでの耐力上の支障はないので、お客様にご説明の上、このまま工事を続行させることにしました。どちらかというと今回、最悪の原因である、「基礎の沈降」でなかったことが不幸中の幸いと言えるのではないかと思います。

もう、これを建てた大工さんはお亡くなりになっているようですが、後世に自分のミスした仕事が見つかってしまうというのは、少々、残念な思いではないか?と感じていますが、今、生きている技術者ができることを知恵を絞って対応していくというのは大事なんじゃないかなと思います。

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