リバースモーゲージと耐震改修

ちょっとデカいニュースが入ってきました。各新聞メディアなども取り上げている内容ですが、「耐震改修工事に対する高齢者の出費を実質ゼロ円にする」というものです。

共同通信社 耐震改修、70歳以上は出費なし 自宅担保に借金、国が利払い より
https://nordot.app/1234611177322004877?c=39550187727945729

共同通信社の記事を引用しますが、政府が、能登地震を受け、高齢者世帯の住宅で昭和56年6月以前に建築された「旧耐震基準」の木造住宅に対する、耐震改修促進の施策として、耐震改修にかかる費用全体から、「補助金」で賄われる金額を差し引いた「自己負担」分を、住宅支援機構が展開する「リバース60」を使って、発生する「金利」を政府が肩代わりするというものです。金利の肩代わりの上限は、70歳以上は満額、60~69歳は2/3とのことです。

実際には、高齢者世帯が、「リバース60」でローン契約を行いますが、リバース60自体は、月々の負担が「金利」だけで、元金の返済はその高齢者が亡くなった場合に、相続人がその自宅売却や手持ち資金で返済するという仕組むなのですが、これを「リバースモーゲージ型住宅ローン」といいます。

※「リバース60」は、金融商品名でしかありません。

今回の政府の考え方では、高齢者が住む住宅の大半が旧耐震基準であり、この旧耐震基準での倒壊の発生率が、能登地震、またはその以前の地震での被害割合が相当数発生していることもあり、早期に旧耐震基準を現行基準での耐震性を担保する必要が社会的に必要であるという認識です。

耐震改修がすすまない理由として一番大きいのは工事費にあります。補助金が出ているとはいえ、自己負担額が余力をはるかに上回る場合は、耐震改修すること自体を年齢的な問題により断念することになります。その資金の部分の懸念を払拭するために、資金調達の部分で選択しを用意したということになります。

ここまでで考えますと、高齢者世帯の耐震改修を促進させるという部分では、実質的に負担がないということになるので、喜ばしいことだとは思いますが、実は、ちょっと考えていただかなければならないことがあるのです。

まず「リバースモーゲージ」という住宅ローンのシステムを理解する必要があります。以下のような特徴があります。ざっくり書くと、

 ・自宅建物と土地が担保である。
 ・債務者(住宅ローンのご契約者)は高齢者(親世帯となる場合もあり)。
 ・支払いは月々の金利のみ。
 ・ローン申し込みの段階では、債務者の相続人の同意が必要。
 ・元金の返済は、債務者の相続人が行う。

というところですが、実は大きな問題がありまして、最大の問題は、この住宅ローンの最終的な債務履行(お金を返済すること)は、「相続人」であるということです。あまり良い表現はありませんが、元々の債務者はお亡くなりなっておりますし、その方が物理的に返済できないわけで、その債務履行を含めて相続人が執り行うわけです。もっと具体的に申し上げれば、親世帯が高齢者で、このリバースモーゲージを利用すると、その返済については子世帯及び相続人全員がその返済を対応するということになるといことです。

そして、元金返済を建物と土地を売却すること自体は、金融機関や公庫のほうがあっせんや買取を行うわけではなく、相続人が売却手続きを行うということになります。実は、これが最もハードルが高いかもしれません。売れなければ原資を確保できませんので。都会のように、中古物件や空き地の流動性が高いところであればそれほど苦労はないかもですが、田舎で資産価値もさほどないところでは売却は難しい可能性があります。

さらに、税務上の問題も発生します。2つあります。

 ・相続税
 ・不動産譲渡所得税

前提は、元金返済を建物と土地を売却することで返済原資とする場合ですが、債務者の資産を「相続」しなければ売却などできません。言い換えますと、売却にて返済原資を調達する場合には、全体の相続を放棄することはできません。その他の債務もあれば、それも含め相続する必要があります。次に、売却するわけですので、当然、不動産譲渡による所得税がかかる場合がございます(このあたりは、個別の事情で変わりますので、税理士や国税の相談窓口でお問い合わせいただきたいところです。)。

今回の施策は、耐震改修部分の負担金額についてのものですので、おそらくその債務額は多くても数百万程度かと思いますので、数千万の住宅ローンよりはリスクは少ないわけです。また、これまでの弊社の実績で考えますと、100~200万程度となるわけで、金額的には低いとは思われます。ですが、債務者の方が直接債務を履行できない状況でのシステムですので、十分な理解と準備が必要となります。

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