耐震診断においては、天井裏と床下調査というのはすごく大事な調査です。それは、水平方向から押されたり、引っ張られたりする力に対して、「ふんばる」ところとして耐力壁というものになりうるかどうか?というところが重要になるからです。
一枚目の基礎の画像は、しっかりと壁の下に基礎がある事例です。これが当たり前の姿ではありますが、昭和40年代よりも前の住宅では、このようなしっかりとした基礎を建物の外周部だけにつくり、中のほうは画像二枚目のように柱を支えるところだけに基礎をつくっている、いわゆる「独立基礎」の形態をとっているものが多いです。これは、耐震診断のときに確実にチェックしなければならないところで、この独立基礎の間の壁を耐力壁にするというのは、それほど耐力があるものが作れません。ですが、診断がおろそかになされれば、こうしたところに平気で壁を作る計画になっていたりもするので、結果的に意味のない壁補強になったりもします。
また、天井裏の状況でも同様なことが言えます。以下の画像をご覧ください。
1枚目の画像は、しっかりと柱の頭の部分を梁で抑え込んでいます。梁は上からの力をその下の柱に伝えるためにあるわけなのですが、これが2枚目の画像のように、単に柱が建っているだけの状態、これを私たちは「なんちゃって柱」とよんでいますが、いわゆる設えとしての飾りであったり、壁をつくるのに都合の良い柱にすぎないようになる場合、その柱の頭の部分は単に繋げるだけの材料で作ってあることがあります。これは決して「手抜き」ではなく、あくまでもこの柱を構造的な柱として使っていないだけなのです。ですが、耐震診断のとき、ろくに天井裏も調査しないでおくと、こうした柱で構成されている壁を「耐力壁」として考えたり、また、この壁の部分を耐震改修し耐力壁としても、その壁は思ったほどの強度は出ないことになります(もちろん、頭を梁などで繋いで強固にすれば別です)。このように耐震改修が計算通りに成立するためには、かなり、きっちりとした調査が必要であるということなわけです。
さて、今回、基礎の例の画像で紹介した「独立基礎」の部分ですが、建物全体のバランスを考慮すると、この部分に耐力壁をつくることは、非常に安定した建物になることがわかりましたので基礎を追加することにしました。
今回の基礎の補強工事においては、以下の点を重視しました。
・独立基礎の部分の完全固定化
・大きな開口部になっているので、この基礎補強位置に柱を追加し耐力壁とする。
この2点を叶えるために、まず、既存の基礎と新たに新設する基礎を確実につなげるために、土間部分には鉄筋コンクリート造のスラブを、そして、独立基礎部分を抱え込む形で立上り基礎をつくります。
このとき重要なのは、単に鉄筋を立上り基礎などに孔をあけて差すだけではなく、「差筋アンカー」というものをつかって、差し込んだ鉄筋が抜けないような形態をとることが重要です。基礎を一体化させ、強固にすることが目的なのですから当然と言えば当然ですが、意外と差筋アンカーまで使わない改修をされる方います。以下の画像はコンクリートの土間部分が打ちあがったところです。
独立基礎もしっかりと固定され、あとは、この独立基礎にめがけて立上り基礎を作っていくことで基礎の強化は完了です。土台を設置し、その土台を基礎にアンカーボルトで留めることで「耐力壁」として十分に評価できる壁を作ることができます。
さて、このような基礎をみますと、すごくコストがかかるような感じもします。実際、この部分の基礎工事で20万程度の予算をいただいていますが、いろんなところをあちこち改修するくらいなら、特定箇所をしっかり改修することで、新耐震基準をクリアできることもあります(この箇所の改修だけで解体から復旧まででおおよそ70万程度です)。
「耐震改修の肝」は、「十分な事前調査」と「計算による合理的な改修計画」なのです。