WEBやSNSなどを見ていますと、「構造計算を行う設計はコスト高になる」という話を展開されているところがあります。全く謎理論なんですが、その大半の理由は「計算の結果要求される部材がデカくなるから」というものです。逆に言いますと、構造計算を行わない場合は部材を小さくできるのでコストを抑えることができるというわけですが、なんでそんなことが言えるんでしょうか?
今回も、株式会社M’s構造設計 代表取締役社長の佐藤実先生がSNSで話題にした内容で、わかりやすいイラストをお借りしますw もはや毎度テンプレのご挨拶になりますが、すみませんw
結論を言いますと、構造計算を行うとコスト高になる設計というのは、そもそも論、考えていた構造計画がコストが高くなる要素が多大にあったということにすぎません。佐藤実先生のイラストではすごく分かりやすく説明されていましたので公開します。

設計がコスト高になるというのは、デカい材料を必要とするという結果が出されるためですが、その理由として一番大きなものが、柱位置のずれというものです。柱は上からの荷重を基礎まで伝える重要な役割がありますが、その柱が2階と1階でそろっていない場合は、イラスト右側のような形態になります。
梁の強さは、柱と柱の間にどのような荷重がかかってくるのか?というものを評価するわけです。以前、県のセミナーで作成した資料をちょっと公開しますが、こんな感じで梁の強さを計算します。

つまり、柱と柱の間に、上階の柱がポツンと立つような場合には、そこに荷重がかかってきますので、当然、その荷重に対応するだけの梁の強さが必要になってくるというわけです。三次元のパースでより具体的にみせますと以下のような感じです。


2枚目の画像が、梁がデカくなる場合の理由を表しています。上からくる荷重を梁だけで支えるので、それが作用する位置や数で必要な強さは変わりますし、その梁に別の梁を掛ける場合にはそこにも荷重がかかりますので、プラスされていくことになるのです。言い換えれば、上階の柱に下階の柱があれば、その梁に直接かかってくる荷重はありませんので、そんなにデカい梁を必要とすることはないのです。これを「柱の直下率」といいます。柱の直下率が高い建物構造では、必要とされる梁の強さが抑えることができますが、それをしっかりと確かめる作業が「構造計算」ということなのです。特に豪雪地域などで積雪量が多いところや、書架など重量のあるものを置いておくような部屋を作る場合にはたいへん重要なのです。
従って「構造計算を行う設計はコスト高になる」ということを主張される方は、その方が間取りの構成を考える上で柱の位置や荷重の伝え方という極々基本的な構造を考慮せずに、勝手な感覚だけで間取りの構成を考えてしまったということを棚に上げて、構造計算を行うことを悪者に仕立て上げることでご自分のミスを隠していると言えます(断言できます)。
弊社は構造計算を行うことを標準的な設計工程としてとらえていますが、構造計算を行うことでむしろコストダウンを図ることができるという実態を経験しています。また、想定よりも大きな力が掛かる箇所もわかってきます。もちろん間取りの構成を考える上で、どうしても欲しい空間デザインというものはありますので、そのデザインを叶えるために構造的な安全性を確かめるわけですが、その行為が「設計する」という根本なのです。
構造計算を行わない人がコストを持ち出してきて構造計算を行うことを否定的に話すのは、
「構造計算ができない」
からです。あるいは、
「構造をしっかりと考えた設計ができない」
からでしかありません。柱の直下率をできるだけ高めるというのは、構造計算云々の以前の問題であって、木造軸組工法を採用する場合の、極々基本的な考え方でしかありません。それすらまともにできない設計士が住宅の間取りの設計を行えば、お客様が意図しないコストになることは間違いありません。
「構造計算を行うとコスト高になる」
と聞いた場合には、まず、その設計能力を疑うべきなのです。