以前のブログでもテーマとして出しました「尺貫法」ですが、耐震診断の結果を出すまでのほぼ8割の作業が「図面復元」という作業になります。
以前のブログでも触れましたが、そもそも、日本建築において尺貫法というのは寸法単位の基本であって、この単位が現在でも、建材品の材料寸法などに多大な影響を与えているわけですし、また、スケール感も尺貫法をイメージしたものになります。少しまとめると、
1厘=約0.30303mm
1分=約3.0303mm
1寸=約30.303mm
1尺=約303.03mm
1間=約1818.18mm
となりますので、これをそのままメートル法に換算すると、
3尺 ≒ 910
3尺2寸 ≒ 940
3尺3寸 ≒ 970
6尺 ≒ 1820
となるわけです。この910と1820というのは現在の建築では最も基本的な寸法であり、様々な建材はこの910と1820を元にして製造されることが大半です。ところが、昭和56年前後までの建築では建材を使った建築というのは、かなり使用されるものは限定的であり、仕上げ材などは一般的に使われるものはほぼ固定化していたわけで、左官などによる塗り壁や、モルタルによる壁、または木板張りなど現場での加工仕上げが多かったわけです。
現在の住宅建築の考え方では、原則として同一間隔のマス目に柱や壁を配置し、間取りを構成させるというやり方が一般的な手法ですので、柱の位置や壁のラインなどはだいたいそろってきます。これらが平面的にずれたり、上階との位置関係がずれますと、「間崩れ」といって敬遠される傾向もあるわけです(理由があればいいんですが、大半は無秩序なズレ方をしちゃってますw)。

上の画像は耐震診断調査の際の手書きの図面ですw 相変わらずチマチマした図面ですんませんw
たぶんなんですけど、イマドキの若い設計者の方がこの寸法もみると、先ほどふれた「間崩れ」を持ち出してきて、「でたらめな間取りだ!」とか「構造的に弱い!」とか糾弾しがちですが、よーーーく見ると、特段問題のある間崩れにはなっていないことが実はわかったりします。それには理由があって、大工さんが平面図を書くときって、上から見てどうやって梁をかけるか?を意識して間取りを考えるので、梁をかけるラインは間崩れどころか、きっちりそろってたりしますw
さて、今回のブログテーマは「図面復元と尺貫法」です。図面復元する上で重要な情報は、古い家の場合ですと和室真壁造りが多く、柱がどのように配置されているかがよくわかります。でも、実際にスケールをあてるとなんじゃこりゃな寸法ですw 以下の画像の部分をごらんくださいませ。

赤いところなんですが、1120mmの幅のふすま戸と1720mmの幅の押入のふすま戸があります。実際のお部屋はこんな感じです。

1120mmのふすま戸ってデカっ!って感じですが、測るとそうなってるんでしかたがありません。1120はともかく、1730って測り間違いで1820じゃないの?って思ったりもします。柱間隔を常識的に考えると、
3尺 ≒ 910
3尺2寸 ≒ 940
3尺3寸 ≒ 970
どれにも当てはまってこないです。そうなると、でたらめな間取りじゃないか!って思っちゃったりしますけど、実はとんでもないのです。種明かししますが、1120mmの幅のふすま戸と1730mmのふすま戸ですが、足すといくらでしょうか?2850です。これ、上記の柱割りの間隔をみますと、
940+940+970=2850
ってなりませんか?w つまり、大工さんは、3尺2寸を2回とって、3尺3寸を1回とる柱配置にしたってことなわけです。つまり9尺7寸にしたってことです。これだけみると「そんなのそこだけたまたまそうなってるじゃないの?」っていわれそうですが、隣の部屋を測れば、計測誤差がほとんどないので、この推察は正しい可能性が増します。

左の赤丸が、1120+1730+1120=3970
右の赤丸が、1120+970+1880=3970
部屋の左右でも計測結果がピッタリ合うわけです。
耐震診断での現場計測では、910、940、970といった柱間隔を元にして、計測結果がこれらの足し算で得られる数値、例えば、1850とか1880とか1910とか1940とか、組み合わせによる数値も頭に入れながら計測していく必要があります。
また、計測結果が、938とかになった場合というのは、柱そのものの収縮などによる影響もありますので、計測結果から新築時にどのような考え方で柱割りを行ったか?という「推測」を行うことが必要になります。まぁ、慣れればたいがいわかりますが、たまに、図面化して、調整しないと結論が出ないというときもあります。
耐震診断の現場調査は、昔建てた大工さんとの会話を行っている感じなのです。