前回の#4に続きます。
前回に続き「地盤調査」に関する話しです。前回は「地盤調査の目的」というものがなにか?ということと、それが設計とどう関係があるのか?という部分を説明しました。端的言えば、
「建物が地面を押す力(重量)< 地盤の持つ耐力」
であるかどうかを「確認」することが地盤調査の目的です。地盤の強い、弱いを判断する基準というのは、建物の重量を支えることができないような土地が「弱い」のであって、極端に言えば、地盤調査の結果、示される数値(地耐力)の数値的な大きさを問題にするのは、工学的な判断ではないということです。もちろん、その数値がいわゆる「固い地盤」とされるレベルか、「弱い地盤」とされるレベルかという一応の目安はありますが、結果として「固い地盤」だとしても、建物の重量がそれ以上の重量であれば「弱い地盤」でしかありません。従って、建物の重量をちゃんと評価しない設計を行っている場合、いくら地盤調査をしても「意味がない」わけです。その結果、例えば一般的な木造住宅での重量よりもはるかに超える地耐力を地盤に要求しない限り、問題のない地盤とは言えないわけですので、過剰な地盤改良を必要とされることになります。
これを一種の「保険」だと割り切る考え方もないわけではありませんが、ボーリング調査を行わないような簡易的な地盤調査ではせいぜい10m程度が調査の可能な範囲でしかありませんので、それ以下の地層に問題があれば表層地盤でも影響が出てきます。ちなみに、大規模な建築や鉄骨や鉄筋コンクリート造のような重量のある建物の場合、大抵、杭基礎を用いることが多いですが、この場合、ボーリング調査といって数十メートル、時には100m程度まで地質調査を行い、さらに、土をサンプリングし物性を評価したりもします。このボーリング調査では「支持層」となりうる固い地盤を探ること、さらに、その支持層までの地層状態を掴むことで杭本体への影響を工学的に判断する材料を得ることで、建物を支えるための「支え」がちゃんと成立するか?ということを検討するわけです。
ですが、木造住宅など小規模で、かつ、重量もそれほど重くない場合には、そこまで厳密な判断をする必要もなく、10m程度の地質をある程度掴むこと、そして、杭基礎などを採用する事例がほとんどないので、単純に地盤の持つ強さだけを評価すれば問題がないという考え方をします。
また、別のテーマでブログに書きますが、「地盤補強工事」で採用される「柱状改良」は、形状こそ「杭」のようですが、杭基礎とは全く別物です。もし、「柱状改良」を行う際に、杭基礎であるような説明を受けたとしたら、それはデタラメです。
さて、今回の地盤調査ですが、簡易調査手法にはいくつかありますが、その中で、
「表面波探査法」
というものを採用しています。よく利用される地盤調査方法として「SWS試験(スクリューウエイト貫入試験)」というものがありますが、SWS試験とは、
○SWS試験
先端がスクリューになった「矢(ロッド)」を回転させながら地面に貫入させ、 この回転数により、地盤の硬軟を判断する方法
です。そのロッドを差した点での地盤の強さを「換算N値(Nsw)」というもので評価します。そもそも「N値」とは標準貫入試験といわれる土質試験で得られる「土質の固さ」を示す指標で、土質力学上、もっとも基礎的な値で、様々な評価に使えるものです。標準貫入試験の詳細は以下のサイトをご覧ください。
本来は、ボーリング調査を行う際に実施する試験なのですが、土質力学における指標としてはマルチに使える指標ですので使い勝手がいいのです。そこで、この「N値」と同じような「N値」を調べようとしたのが、SWSなわけですが、全く同じ意味合いにはならないので、「換算N値」と呼ぶわけです。ちなみに、この換算N値は、「山田の式」といわれる実験式で導かれるものです。
一方で、「表面波探査」ですが、これは、
○表面波探査
地盤面に起振機を置き、表面波(レイリー波)を発生させ、波長の伝播速度から地盤を調査する方法
です。SWSが点での測定であったものに対し、表面波探査では「面」での評価になります。測定点が増えると広範囲で面としての評価ができます。住宅レベルの場合、建物に対して5点(四隅、中央)で計測します。地盤の固さによって波の伝搬速度が違いますので、それを利用しています。地盤が固いほど波の伝搬スピードは速いです。
SWSでは、ロッドがなにかの固形物に当たったり、すでに表層部分に何らかの改良が行われており、ロッドの回転が阻害されるなどで正確な判断ができませんが、波で判断する表面波探査では、そういった問題はなく、10m程度の深さまでであれば、固さの分布などはほぼ正確な実情を掴むことができます。



このような形で、敷地全体の分布を知ることができます。また、この際わかる数値としては「N値」ではなく、「地耐力qa」となりますので、設計で計算された接地圧とすぐに比較できます。弊社の設計では、多雪地域で積雪1mを加味した状態での荷重評価を行いますが、おおよそ、16kN/㎡程度の接地圧を要求されるレベルで構造区画を計画するようにしています。
「表面波探査」についての詳しい説明は、弊社が調査と評価をお願いしている「株式会社アーステクト」様のホームページをご参照ください。
というわけで、弊社における地盤評価では、結果としては、それほど地盤改良工事を必要とする事例は「ありません」。特に、元々建物が建っており、相当な年月が経過している場合、「圧密完了(ざっくりいうと、水が抜けて、土が締まっている状態)」という土質力学の状態でありますので、相応の地盤強度が出てきます。
確かに地盤補強工事を行い、ガチガチに固めれば、地震はの伝搬も早くなりますので、土地が揺れるスピードが早く、建物に対してゆっくり揺らすことはなくなります。ですが、補強工事よりも下層に軟弱地盤があれば、その部分ではゆっくりとした動きになるわけですので、表層レベルの地質状況に対する地震波による影響を過大に評価する必要はないと考えています(そもそも、それを考えるなら、上部構造としての建物の固有周期も考えなければいけません)。従って、弊社では「地耐力」を重視した地盤評価を行っています。
むしろ重要なのは、「地盤の強さの偏りがない」ことなのです。建物が建つ土地に極端に弱いところがありますと、その影響は土地の「不等沈下」として発生します。その場合には、地耐力云々よりも、耐力を一定にするための「地盤補強工事」を実施することになります。特に多いのは、過去に浄化槽が埋まっていた、とか、汲み取り型の便所があった、とか、井戸を掘ってあったなどです。このような場合には相応の対策が必要となります。
いずれにしても、「地盤の強さ」は、建物の重量に影響されるということが重要なのです。