安全証明書

最近になって、木造住宅で確認申請に添付義務がない「構造計算」を行う工務店さんとかちょっとずつ増えてきました。今日の話題はそういった方にちょっと水を差すような話しになるかもです。また、一般のお客様にも、「構造計算」というものがなんであるか?ということの実態を知っていただく必要があると思います。

構造計算というのは、建物の構造の安全性を計算によって確かめるものなのですが、そもそも、法律上、構造に関する安全性というのは2通りの評価の方法があります。

 1.構造関係仕様規定への適応

 2.構造計算による安全性の評価

です。1は、建築基準法や建築基準法施行令等に構造安全性のための法文があり、その数値や仕様に適合させることで構造安全性を見たいしているという判断を行うものです。2は、1とは違い、法が求める安全性の評価を計算によって求め、問題がないことを示すというものです。

1と2、どちらの手法をとっても、構造安全性の観点から問題がないということを「法的に」示すことができますが、それを第三者が見ることを「確認申請」という行為になります。もう一度書きますが、どちらの手法をとったとしてもです。

ところが、建築基準法に書かれている数値や仕様というのは、比較的規模の小さな建物や簡易な構造の場合にはまず問題はなさそうなんですが、例えば高さ100mを超すような超高層建築や、1000㎡とか広大な建物面積を必要とするような建物の場合は、いくら法律にそれらが記載されているとはいえ、そのまま使うということが物理的に言って評価にならないという考え方があって、であれば、面積や高さや階数で一定の制限を掛け、ある一線を超えないものは仕様規定でもOKだし、超えるものについては構造計算を行うことを求めましょうというのが法律で決められています。

さて、これを住宅にだけ焦点をあてますと、一般的な木造住宅では構造計算を確認申請で求められることはありません。前段の文章を用いれば、「仕様規定」といわれる決め事を守れば、即、構造安全性を担保しているということを「法的に」言うことができます。では、なぜ、それでも構造計算を行おうとするのでしょうか?

実は木造住宅や同等程度の規模の建物では、構造的な部材の設計強度については求められていないのが法律の現状なのです。例えば、2階の床を支える梁の強度がどれだけなのか?についての法的な評価までは求められていません。仕様規定で評価を受けるのはせいぜい、柱の太さ(細長比)、筋交いの量、基礎の高さ、くらいです。部材の強度の計算は求められていないので、梁が床に載せた家具などでたわんだとしても極端に言えば「問題ではない」わけですw また、福井など雪国では条例で住宅でも積雪荷重を考慮するようなことがない限り、積雪荷重を加味した筋交い量の規定もございません(実際、福井県では条例はあるもののそれが木造住宅への適用はありません)。さらに、地震や風による影響なども、一定の係数を対象の面積にかけ、そこで求められる「量」があり、一定の比率のバランス内に納まればOK!って感じです。

※旧耐震基準とか新耐震基準とか大騒ぎですが、それも、評価の仕方が問題ではなく、決められた量や数値の違いが問題でしかありません。

ということは、お客様が自分の家を建築しようとして設計者に設計を依頼したとしても、「構造安全性」という部分においては、単に「法的な根拠を元にした数値」をクリアするだけで、問題なし、としてできるということと、そのような対応が「大半」であるということです。

となりますと、構造計算を行うことができる設計事務所や工務店(弊社も住宅であっても構造計算を行っておりますが)は、構造計算によって安全性を検証しているということになりますが、果たしてそうなのでしょうか? 実は、構造計算を行うことだけでそれを検証しているとは微妙なところでならないのです。

構造計算によって安全性を確かめたという場合には、以下のような書面を依頼者に発行しなければなりません。

これは、構造計算が確認申請で設計資料として審査対象になる場合には必ず添付する法的な書類ですが、審査で対象になってない場合には発行されないのがほとんどです。言い換えますと、法的に構造計算を求められる場合には、設計士として構造上問題がないことを証明する書面を発行しますが、そうでない場合、構造計算を求められるようなことがない場合には、この書面の添付はないってことなのです。

そんなのでいいんでしょうかね?(そして、この書面が発行できるのは、工務店の社長さんでも役所でもありません。「設計士」の資格をもった方で、その設計の安全性を評価した方だけです。

「構造計算を行ってます!」っていうのは、計算さえ行えば言えることです。ですが、法的にその審査がないからといって、法的な書面添付をしないという理由ってないんじゃないかなと思ってます。この画像の証明書を「安全証明書」というのですが、これが添付されない構造計算書って「構造計算してみたw」ってレベルでしかないような気がしてます。

設計士が計算を行うというのは、その計算結果自体に設計士としての責任を持つということです。仕様規定を馬鹿にして、構造計算を行っていることを声高に主張する方がいますが、仕様規定が構造計算を行うよりも劣っているというような感覚を持っているとすれば、それはそれで問題があると思います。

もっとも糾弾されるべきは「責任を持てない設計を行っている」ことです。

ちなみに、この画像は、構造計算書に添付する構造設計のルート、考え方の道筋をフロチャートにしたものです。構造計算書が審査対象になる場合は、このルートが法的に問題がないかも検証されます。一般的に「型(ルート)」があって、そのやり方の説明書だとお考えいただければなのですが、構造計算書が審査対象になっていないとしても、構造安全性を証明するためには、「どのようなルートで検討を行ったか?」という資料は出さなければなりません。

構造安全性を計算によって示すというのは、実は、設計士の責任を確実に明確するという作業であることをご理解いただければ幸いです。

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