木造耐震診断での落とし穴

元日の震災以来、木造住宅の耐震性についてのお問い合わせが連日のようにあります。その中で、過去に他社で耐震診断を行い、補強プランの作成を行ってもらった方より、やはり昨今の地震増加で不安になったので、耐震改修の相談をご依頼されました。

他社での診断結果については、そのまま鵜呑みにすることはできませんので、確実にその調査結果が現地と合致しているか?という部分での確認作業は必要になりますが、この過程でいわゆる専門家といわれる診断士でも嵌ってしまう落とし穴があります。まず、過去の調査結果の画像をご覧ください。

過去の耐震診断調査で作成された2階平面図

この建物は昭和47年に新築された木造2階建ての住宅です。旧耐震基準ですので耐震性は現行法と比較すると低いということになります。この画像を見ると、意外と壁になる部分が多いので、それなりの耐震性があるかもしれませんし、仮に補強工事を行う場合にも、補強できる壁は多いので比較的「楽」に補強プランを作成することができるという見込みができます。

ですが、昔の木造住宅にはありがちなことを知らない診断士は、大きな間違いを犯すことがあります。耐震診断においてその建物の耐震性を判断する場合には、地震による揺れに対抗できるだけの「壁」の「硬さ」がどのくらいあるのか?というのを調べることになりますが、その「壁」というのは、柱と柱で区切られ、下部は1階においては基礎+土台、2階においては梁の上につくられ、かつ、上部にも梁が入っている区画をいいます。

この場合、筋交いがあるとかないとか、そういうことは一旦おいておいて、この四角く区切られた部分を「壁」として評価して、その「壁」がどのように作られているか、例えば、筋交いがはいってますよ~などの構成する内容を足し合わせて「硬さ」を評価していきます。言い換えれば、この柱、梁・土台などで区切られていないものは「壁」ではありません。

過去の調査結果の画像の平面図の「内部の壁」にご注目ください。外壁の部分は、2階の外観を作るためには、絶対に下部、上部にも柱がありますし、おおよそ柱の存在は、窓の両サイドなどにはあると推測できますので(絶対ではないが)、ほぼ間違いなく「壁」として評価できますが、「内部の壁」については、柱、上下の梁(土台)については確認できなければ「壁」としては評価できません。そして、古い住宅においては、2階の作り方が非常に簡素化されている(手抜きなどはなく)ことが多いのです。特に、2階に和室がある場合にはその傾向が強いです。この平面図画像でいいますと、

赤丸をつけた部分は、壁として評価できない場合が圧倒的に多いのです。本来は天井裏に這い上がってそれを確認しなければなりませんが、そういった経験やノウハウがない場合には、単に「天井裏を見た」だけで終わってしまうことが多いのです。それでは再調査の結果どうだったでしょうか?以下の画像をご覧ください。

「壁」として評価されるとした、Y4、Y5、Y6の上部には梁がありましたが、その他の壁の上部には梁は存在していませんでした。つまり、診断として本来Y4~6以外の「壁」は評価ができません。実は2階の天井裏に存在する梁は、基本的に屋根を支えるための梁であることから、屋根を支えるための「小屋束」という部材を受けるための梁しか存在しないことが多いのです。

また、部屋の内部から見ると柱が見えても、それは内装的な意味合いで壁をつくるための柱でしかなく、ただ、「建っているだけ」の柱であったりすることも多いのです。これらの柱を弊社では「なんちゃって柱」とよんでいます。ここを調査段階で見極めないと、診断はともかく、補強プランを作成し耐震改修工事を行う際に思わぬ追加施工を必要としてしまいます。なぜなら、上部に梁がなければ、その梁を追加し取り付けなければならないからです。

過去に提示された補強プランを確認したところ、上部に梁のない箇所の「壁」X4、X5、Y7については、耐力壁を入れるということで改修箇所となっておりました。また、X6、X7は未改修ではあるものの、計算上、耐力壁として評価しているので、この2つの壁が評価に加わっています。これは評価に加えるべきではありません。

耐震改修は大きなコストがかかることが多いという印象を持たれますが、事前の調査精度を上げることで、確実に補強を行う箇所を絞り、そして、評点を新耐震基準に合致させるという手法をとれば、それほど高コストにはならないことが多いのです。また、以前もブログテーマで、リフォームと耐震改修を同時に行うことで、コストメリットを高めることをご紹介しました。こちらもご参考いただければと思います。

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