#1に続きます♪
前回のブログで雪による部材の「たわみ」を検討しないということで、冬の北陸での「雪が降ると襖が開かない」の原因になってるという説明をしました。雪が降ると襖が開かないことが「当たり前」という発想がお客様にも、そして専門家たる建築屋にもあり、さらに小規模な住宅等では法的にも対策を審査するようなことがないという状況があることも拍車をかける状態で、積載荷重を設計で評価することがないという状況を作っていることを説明しました。
さて「たわみ」を問題にするときには2つの現象を想像する必要があります。建物の床や屋根に重みがかかるときのイメージを表すとこんな感じになります。

重量物を床や屋根などの上に置くと、その置いた瞬間に、以下の図のようにたわみます。

この「たわみ」は、普段の生活レベルでほとんど意識できないレベルの「たわみ」なのですが、一見、たわんでないように見えても、レーザーなどの高精度な測定をするとたわんでいますw ところが、重量物をどかすとどうなるか?というと、たわみが全くなくなるのです。というか、「元に戻る」という表現のほうが正しいかもしれませんw

この、重量物を載せた瞬間にたわんで、重量物をどかすと元に戻ることを「弾性変形」といいます。どんなに重い重量物を載せても、それを支える部分が壊れず、たわんで変形するだけで、その重量物をどかすと、ポンっと元に戻ることです。これが1つ目の現象です。
さて設計では、壊れないことを判断する場合には、「曲げ」と「せん断」と「引張・圧縮」というものに対して、その部材が持つそれらの耐力と比較して、耐力が勝れば「壊れない」という判断をしていますが、実は、壊れないことだけを見てるだけで「変形する」ことはそれらだけで判断できるものではありません。
「壊れないけど変形していって、その変形の大きさがデカくなると到底使いものならない」
ということを設計で判断することが、この「たわみ」を検討することになると言えます。でも、重量物を載せたらどんな状況でも必ずたわみますから、たわみがゼロになるような状況っていうのは実態としてはありえません。従って、たわみを考える上では、上記の、
「モノを載せたらどのくらいたわむのか?」
というもの「弾性変形」として計算することを基本として検討することになります。

「対象とする部材の長さ」と「たわみ量」により、
たわみ量 / 部材の長さ
の値を知ることで、そのたわみの大きさを検討しようというものです。例えば、部材の長さが500mmに対して10mmのたわみ量の場合、10/500より、0.02という値が出ますが、同じたわみ量で部材の長さが1000mmの場合ですと、10/1000より0.01なわけで、後者のほうが優秀だということになります。
ところが、たわみというのはそんなに単純なものではありません。これが2つ目の現象です。
繰り返しますが「弾性変形」とは重量物をどかしたら元に戻る現象のことですが、重量物をどかしても元に戻らなかったらどうなりますでしょうか? 実はこの現象を「クリープ変形」といいます。
モノを載せた当初は、それほど大きな「たわみ」がないのですが、

時間経過とともに、だんだんと、以下の図のようにたわんでいく現象です。

これは古い住宅にお住まいの方ならたいていは経験していることで、例えば、床が一部フカフカするとか、歩くとフワッと沈むとかは、すべて「クリープ変形」していることが原因です。で、これは木造特有な現象ではなく、鉄以外の物質で発生する変形現象なのです。ですから建築では、経年変化でクリープ変形が発生することを「見越して」設計することになっています。
たわみ量に関する比率は、先ほどのご紹介した、
たわみ量 / 部材の長さ
ですが、これを評価しても、今の今の時点の評価でしかありません。そこで、将来的にクリープ変形が見込まれることを加味するための係数をこの比率に掛けることで、万が一、将来クリープ変形が発生した場合にでも、その影響を現時点で防ぐだけの材料の強度を確保しておこうというものです。
この係数を「変形増大係数」といいます。この「変形増大係数」は、法的な規制上、構造によって違いが設定されています。
| 構造形式 | 変形増大係数 |
| 木造(W) | 2 |
| 鉄骨造(S) | 1 |
| 鉄筋コンクリート造(RC)床版 | 16 |
| 鉄筋コンクリート造(RC)梁 | 8 |
| 鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC) | 4 |
木造の場合では2倍、鉄筋コンクリート造の床の場合はなんと16倍も、たわみ量が増大するものとして検討することが求めれます。
例えば、先ほどの例で、部材の長さが1000mmで、たわみ量が10mmの場合で、木造の場合ですと、
(10/1000)×2=0.02
という比率をもって検討することになります。どのくらいの比率以下にするか?を求められているか?といいますと、
1/250
というのが、規定になります。1/250とは0.004ですので、先ほどの例の、部材の長さが1000mmでたわみ量が10mmの木造の梁の場合は、その規定を大きく上回っているわけですので、NGとなるわけです。
木造の梁に求められる「たわみ量」の最大値は、1000mmの梁では「4mm」ですので、1cmも変形したらダメなわけです。そして、たわみ比率は部材の長さに比例して考えればよいので、例えば8畳間の間口2間の4本立ての襖がはいっているところの梁は、長さを3640mmとすれば、その1/250までですので、14.56mmが法規制の限界点であることがわかります。15mmも変形したら、ほぼ確実に襖が開かなくなりますので、雪対策で襖の開閉をなんとかできるようにするというのであれば、襖の角と鴨居の溝の空きまでのたわみしか認められないということになります。おそらく3~5mmが限界なはずです。
このようには、変形を考えるというのは、部材の経年変化を見定めることも必要でありますが、実は、木造では雨漏りや結露で梁がベタベタになると変形が大きくなっていきますので、劣化対策、維持管理はかなり重要になります。

