想定している地震力は地域によって違う現実

耐震性能の基準は地域によって違う

耐震性能に関する考え方は、以下のブログテーマでご説明させていただきました。

地震時に想定する荷重
そもそも耐震性能なに?

地震時に想定する荷重というのは、地震力というものですが、いろんな式を組み合わせて評価されることになりますが、それらが、「地域によって評価がちがう」ことをご存じでしたか? たぶん、日本全国どこにいっても「耐震性能」という部分での評価、比較のための方法は同じだと思っていませんか? それは違います。

地震地域係数Zという謎の係数

過去ブログでも紹介しましたが、地震力は、

Qi=Ci×ΣWi

という式で計算されます。i は階で、Wはその階の重さ、それに、Cという横方向に引きちぎられる程度を示す、層せん断力係数というものを掛け算してます。ブログでは、建物が重ければ重いほど地震の影響を受けるということをご紹介していますが、このCというのも、

Ci=Z×Rt×Ai×C0
Z : 地震地域係数
Rt : 振動特性係数
Ai : 地震層せん断分布係数
C0 : 標準せん断力係数

で計算されるのです。なんとか係数とかを掛け合わせていって、結局、建物の重量のどの程度を横からバーンと押される力になるのか?という部分を計算するわけですが、簡単に言えば、その階からその階よりも下の階の重さを合計したものの、何割をその力としてみなしますか?ということにすぎません。

ちょっと中身を説明しますが、

Z : 地震地域係数(地震の起きやすさ、危険度を元に定めている)
Rt : 振動特性係数(地盤の固い、柔らかいとかで計算式で求める)
Ai : 地震層せん断分布係数(建物の高さと重量の影響を計算式で求める)
C0 : 標準せん断力係数(建築基準法で定めた地震力(加速度)の大きさ)
    ※事実上の、想定している地震のレベル

なんですが、Z以外は建物自体に関係する係数なわけです。しかも、「地域」とかかれているので、これは地域によって違うってことです。では、この地震地域係数とは、どのような定めになっているでしょうか?

これが地域地震係数です!

きっちりまとめられている素晴らしい画像がございましたので引用させていただきます。
琉球大学地震学研究室
沖縄は地震が少ない?
https://seis.sci.u-ryukyu.ac.jp/hazard/large-eq/okinawa_earthquake.html
※地震保険の等級区分にも言及されてましたので、ご興味があればそちらもご参照ください。

法的には、一覧表になっているだけですので、あまり視覚的にわかりませんが、このような画像にしますとわかりやすくなります。皆さん方の地域の「地震地域係数」はいくつですか?はっきり言いますが、1.0よりも小さいというのは、1.0との差を割合として「目減りさせている」ということなのです。今回、震災被害の出た能登は、「0.9」です。つまり、10%地震力を低減してもよいということになるわけです。また、熊本の震災がありましたが、熊本などのは、0.8~0.9なのです。一方で、静岡県では、1.2ということで、地震力を20%割増しで考えることになっているわけです。南海トラフ地震が懸念されている太平洋側に目を向ければ、四国、九州の太平洋側沿いは0.9ですし、関東、東北部分も1.0です。

福井は雪国ですので、北陸地域をみますと、新潟では0.9ですので、新潟での耐震性能の評価は福井においては10%低いということになります。さらに、これまでも巨大地震の影響があったところは、それなりの係数値になっていると推測できますが、新潟、能登の0.9も、九州北部も0.8ということをみますと、この係数設定に疑問が生じるとは思いませんか?

耐震等級3や構造計算、耐震改修を行っていれば問題ないのか?

耐震性能の評価を行うという視点で、耐震性能3などの等級制度を利用したり、構造計算を行ってきっちり建物の重さや、雪の考慮、さらに、地震力の計算を行うとしても、それらを想定するための数値計算において、ある部分で「低減」されているわけですから、建築を依頼される方がその事実をご存じであればともかく、そうでなければ、少なくとも1.0を切る地震地域係数を使うということは、「性能上の想定としての説明」をされるべきなのです。そして、それに不安を感じるのであれば、地震地域係数の定め以上に係数値をとることを設計の希望として伝えるべきです。

多くの設計者は、それが建築基準法で定められているからということで、低減数値を使うわけですし、それで何か問題が発生したときは、「国の想定よりも大きな力が加わったため」という言い訳ができることになります。係数によってコントロールされるのは、ある意味合理的な手法ではありますが、その係数が持つ意味がどういうことなのか?ということを理解しないで使われることはおかしいというのが私たちの考え方です。

実際、今回の能登地震で被害が及んだ富山市議会議員の方も、ブログで触れておりましたが、
https://ameblo.jp/gosyukai/entry-12835491804.html

こうした、設計上の係数のからくりが、実際の地震での影響でかなり差が出るという部分を理解しなければ、地震に対する防災的な意識は低いままではないか?と考えています。

また、国や県市町村が助成金も出している「耐震診断」でも、同じ、「地域地震係数」が使われます。つまり、耐震診断を行った結果、耐震性をアップさせるための補強プランを考える場合にも、この地域地震係数の低減があれば、当然、想定している地震力はその分「低減」されていることになります。従って、耐震改修工事を行ったとしても、地域地震係数で低減されていれば、その分だけ想定している地震力は小さいということになります。

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